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第4話 続 手合わせ

Auteur: O.T.I
last update Date de publication: 2026-06-10 20:13:25

ウォーレンの合図によって開始されたエステルとレオンの手合せ。しかしほんの一瞬でその決着は付くことになる。

開始と同時に飛び出して先制攻撃を仕掛けたのはレオン。彼が狙ったのは剣を持つエステルの手元。安全のため、分厚い革製の篭手をはめている。いかに剣聖の娘で実力もそれなりにあると聞いてはいても、婦女子に剣を向けるのには抵抗がある。なので早々に剣を弾き飛ばしてしまおうと考えたのだ。

だが……!

ギィンッッ!!!

激しく金属音とともに勢いよく弾かれた長剣がクルクルと回転しながら宙を舞い、そして訓練場の地面に転がった。

「そ、そこまでっ!!勝者エステル!!」

ウォーレンがエステルの勝利を告げた。

しかし……周囲で観戦していた騎士たちは、その瞬間に一体何が起きたのか直ぐには理解が追いつかない。暫しの間、静寂が訪れる。それを破ったのは対戦の当事者であるレオンだ。

「な、何が起きたんだ……?」

剣を弾き飛ばそうとして、逆に自分の剣が弾かれたのは分かる。それを成したのがエステルであることも。

だが……彼女は今も、最初の構えのまま一歩も動いていないように見える。どのようにして自分の剣が弾かれたのか、全く見えなかったのだ。

「おい、ジスタル。何がどうなったんだ?」

「何だ、見えなかったのか?普通に弾き返しただけだぞ」

デニスの問にジスタルは事も無げに返す。

だが、彼の言う通りだ。エステルがレオンの剣を弾き返した。言葉にすればそれだけの事。しかしその速度は常人では視認すら困難なほど。

いや……ここに集うのは戦いの専門家である騎士たちだ。その彼らの目を持ってしても動きを捉えることは出来なかったのだ。

「も、もう一度!!もう一度お願いします!!」

確かに油断はあった。しかし、剣聖の娘であるという触れ込みと、少女の見た目によらず重い剣を軽々と素振りする様子から、そこまで侮っていたわけではない。だが、結果はこの通り。自分の想像を遥かに超える実力者であることを、レオンは認めざるを得なかった。

それでもこのまま引き下がるのは、彼の騎士としてのプライドが許さない。

「実戦だったら、やり直しなんてきかないんだがな……」

「いいよ、お父さん。私ももう少し手合わせしたい!」

「まあ、お前がそう言うなら構わないが」

「うん!レオンさん、もう一度お願いします!」

「ああ、ありがとう」

レオンは礼を言い、弾き飛ばされた剣を拾い上げて再び開始位置に立つ。

(胸を借りる……などと言うつもりはない。例え実力差があろうと、勝利への意志は捨てない)

静かに闘志を燃やすレオン。その瞳には決死の覚悟が宿っているのが、誰の目にも見て取れた。

(ほう……中々どうして、ホネがあるじゃないか。たかが手合わせレベルの闘気ではないぞ。これは見所があるヤツだな)

心の中で、そう評するジスタル。かつて剣聖と呼ばれた彼が実力を認める者は、そう多くはない。

先程とは比べ物にならない闘気を察知したエステルも、今度は知っ先をレオンの喉元に定め正眼の構えを取った。ギャラリーも張り詰めた空気に緊張感を高め、固唾を飲んで見守る。

そして……!

「はじめっ!!!」

再びウォーレンが戦闘開始を告げた!と同時に、レオンが猛スピードでエステルに向かって間合いを詰める!!

「はぁーーーーーっっっ!!!」

そして裂帛の気合で斬撃を繰り出す!!

手加減一切なしの渾身の袈裟懸けの一撃!

模擬剣と言えど、それは直撃すれば命に関わるような大怪我を負いかねないもの。相手をか弱き少女ではなく、自分よりも強い戦士であると認めたが故の全力の攻撃だった。今度は弾かれても剣を取り落とさないように、しっかり両手で柄を握り締める。

ギィンッ!!!!

先程と同じように、エステルの一撃がレオンの剣を強く弾く!!

しかし、レオンは今度は剣を強く握り込んで離さない!!

(!!やはり見えない!!だが……まだまだ!!)

「でりゃあぁーーーーっっっ!!!!!」

弾かれた剣を力で無理やり引き戻しながら、そのままエステルの胴を薙ぎ払うように叩き込む!!

だが……!

初撃と変わらぬ威力で振るわれた横薙ぎの斬撃は空を切った!

「なっ!!?」

エステルを切り払う……と思った瞬間、彼の目には剣が彼女の胴をすり抜けたように見えた。ほんの一瞬だけ呆然となりかけたが、すぐさま意識を切り替えようとする。

しかし……

「……ま、参りました」

気が付けば、いつの間にかエステルの剣の切っ先が、レオンの喉元にピタリと突き付けられていた。ほんの一瞬の意識の切れ間さえも、彼女は見逃すことは無かったのだ。

「そこまでっ!!勝者、エステル!!」

ウォーレンが戦闘終了を告げると、ギャラリー達から大きな歓声が上がる。攻防はほんの数合。しかし、滅多にお目にかかれない高度な戦いに、誰もが二人の健闘を称えるのだった。

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

「エステル嬢、完敗です。手合わせしていただき、ありがとうございました」

「こちらこそ、ありがとうございました!!」

手合わせが終わったあと、二人は歩み寄り握手を交わす。完全な敗北だったが、レオンの顔は晴れやかなものだった。結果はどうあれ、強者に全力で挑んで納得ができたのだろう。

そしてエステルはいつも通り、ニコニコと屈託のない笑顔で感謝の言葉を述べる。年端もいかない少女が現職の騎士を打ち破るなど、遺恨を残しても不思議ではないが……彼女の天真爛漫で不思議な魅力がその場の空気を和らげているのかもしれない。

いや、むしろ……我も我もと手合わせを望む声が上がっている。すっかり騎士団員たちを虜にしたようだ。

「どうだ?これで納得いったか、デニスよ」

「おぉ、十分だ。良いものを見させてもらったぞ」

ジスタルに聞かれたデニスも満足した表情だ。

そして、ジスタルは更にレオンに向き直り言う。

「レオンと言ったか。お前さんも中々見所があるな。まぁ、うちの娘はちょっとレベルがおかしいが……俺くらいは十分超えられると思うぞ」

「ほ、本当ですか!?」

「無論、厳しい修練を絶やすことなく精進すればの話だ。まぁ、お前さんはストイックそうだし、大丈夫だろ」

剣聖と名高いジスタルにそう評されて、レオンは喜びを隠しきれない様子。年相応の無邪気な笑顔を浮かべている。

それを聞いて黙ってられないのは、ギャラリーとなっていた他の騎士たちだ。エステルへの手合せを所望する以外に、ジスタルに教えを請う者が殺到する。あまりの熱意と勢いに、流石に断りきれない二人。

そして、その場で即席の剣術指南が始まるのだった。

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